ヒデヨのジョムティェンビーチ便り

バンコクの南東150km、パタヤの南5kmに位置するJomtien Beachでロングステイしています

東急ストア とタクシー待ち

東急田園都市線の駅に直結しているスーパー「東急ストア」で、車椅子での買い物体験をしてきました。

 

買い物は、友人のWさんと一緒でした。Wさんは半年前に突如、脳梗塞を患い、右半身が不自由です。懸命なリハビリの甲斐あって、杖を使ってなんとか少しだけ歩行できるようになりました。久しぶりの再会で、少し痩せたものの穏やかそうな表情のWさんが見て、ほっとしました。

 

買い物は、Wさんの発案でした。当初、私がWさんの家に行こうと思っていたのですが、せっかくの機会だから街に出て、少し買い物してみたい 、との意向でした。タクシーで病院やリハビリセンターへ行く以外、家族の付き添いなしに自分ひとりで外出するのは、倒れて以来半年ぶりとのことでした。

 

自宅からタクシーでやってきたWさんと、駅の前で会い、まずはスーパーの隣にあるタリーズで、しばらくコーヒーを飲みながら談笑しました。

店内の椅子に座るのがやっとやっとで、相当しんどそうです。杖をつきながらスーパーの中を歩くのは、かなり困難そうに見受けられました。さて、どうしたものか。

 

スーパーはかなり大型で、バリアフリーの配慮が結構なされているようです。もしやと思い、レジ近くの店員さんのところに行き聞いたところ、貸出し用車椅子の用意があるとのことでした。これはラッキー! 早速お借りして、タリーズで待つWさんのところに向かいました。

 

Wさん、驚きながらもホッとした様子。早速、車椅子に乗り込んでくれました。私にとっても、車椅子の介助で買物するのは、初めての経験でした。

 

東急ストア内は、通路の幅が広く取ってあり、車椅子での通行になんの支障もありません。

まずはパン屋さんに入ってみました。 Wさんの目が輝きます。嬉しそうに、自分の好きなパンを3個ほど選びました。支払いの際に、財布からお札を取り出して渡し、お釣りを受け取って財布の中に戻す。その行為が、右半身が不自由なWさんにとっては、大仕事でした。余裕の無さが見て取れます。でも、これもリハビリの一環になるでしょうから、私は静かに黙って見守っていました。

精肉コーナーでは、店員さんと会話しながら、好きな骨付き肉を選びました。店員さんは肉を手渡す際、さりげなくカウンターの中から出てきて、肉を手渡してくれました。

その後牛乳やヨーグルトなどを選び、レジへ向かいました。レジの人は、さりげなく「袋にお詰めしますね」と言い、買った商品をささっと袋詰めしてくれました。

車椅子だから特別扱いするという感じではなく、少々助けが必要な、ただの一般のお客さんという感じの応対で、気持ちよく買い物ができました。東急ストアさん、ありがとうございました。

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買い物を終え、駅の前のタクシー乗り場に向かいました。夕方で、少し小雨が降ってきました。タクシー待ちの列が、6人ほど並んでいました。私たちは、その最後尾につきました。

スーパーに車椅子を返却しなくてはなりません。Wさんは杖につかまりながら、車椅子から立ち上がろうとします。しかし、なかなかさっと立ち上がれません。 30分以上クッションのない車椅子に座っていたので、体が痺れているようです。 「大丈夫?しっかりつかまって」などと声をかけながら介助し、やっとのことでようやく立ち上がれました。

 

空の車椅子をスーパーに返却しに行き、タクシー乗り場に戻ってきたところで、私は驚きました。        

前に並んでいる6人のうち誰も、Wさんに順番待ちを譲ってくれていないのです。

タイだったら、障害のある人に対しこのような扱いをしてずっと立たせるのは、考えられません。仏教のタンブン(徳)を積む精神に反します。

 

前に並んでいる人たちのよそよそしい態度には、Wさんを車椅子から立たせようとしている最中から、感じていました。目を合わせようとさえしません。私たち2人は、まるで存在していないがの如く、空気のように扱われました。

おそらく想像するに、もし目を合わせたら「すみません、タクシー待ちの順番を譲ってもらえませんか」と言われるのではないか、そんなのまっぴらご免だ、といったところでしょうか。もちろん、皆さん一刻も早く家に帰りたい、という気持ちはあるでしょう。ただ私の見たところ、列の中で他に杖をついている人は、誰もいませんでした。

 

結局十数分間待って、タクシーの順番がきて、Wさんは家路につくことができました。その十数分間の間も、私たちは空気のように扱われているように感じました。

 

私は何も、順番待ちを譲ってほしいとか温かい言葉をかけてほしい、と言いたいのではありません。

 

タクシー待ちの客の1人として、普通に扱われたいだけです。目を合わすのも避けられるとか 、空気のように扱われる覚えはありません。

 

ごく自然にバリアフリー応対を実践している東急ストアの店員さん達の態度との、あまりの落差に、余計にショックとばりました。

 

 

翌日、別の場所で、松葉杖の人が立たされている場面に遭遇しました。
JR新宿駅山手線のホームで、列車が到着するのを待っていました。ホームで待つ人たちの中に、ワイシャツ姿の若い青年がいました。その人は、両脇に銀色の松葉杖をついていました。

列車が到着し乗り込むと、車内はかなり混雑していました。発車後しばらくして、ふと斜め後ろを見て、驚きました。少し離れたところに、松葉杖の青年が立っていました。左手でつり革をつかみ、右脇に松葉杖を2つまとめて抱えて、立っています。

 

青年の前の席に座っている人たちは、会社員風の男性ばかり。皆、スマホもいじらずに、寝たふりしています。青年は、空気のように扱われていました。

 

この光景には、本当に驚かされました。

目の前に松葉杖の人を立たせておいて、悠然としていられるのが凄いです。

 

特に決まりがあるわけでは無いのですが、バンコクの電車の場合、少し混雑してくると、なんとなく女性客が席に座り、男性客がつり革に捕まって立つ感じになります。ビジネスマン風の男性客なら、なおさらです。まして高齢者や障害者を立たせるのは、あり得ません。席を譲らない男性がいたら、人非人の扱いを受けるでしょう。

 

やがて山手線の電車が恵比寿駅に到着し、青年の前に座っていた乗客が、立ち上がって降りていきました。松葉杖の青年は、ようやくそこで座ることができました。
新宿から恵比寿間の所要時間は約10分。10分間席を譲るのは、そんなに「損な」ことなのでしょうか。

 

 

日本人は一般的に、 「おもてなし」で優しく気配りができる、と言います。私は少々眉唾だと思っています。なぜならそのおもてなしは、 「身内に対して」という前提条件が付くからです。電車の中で見知らぬお年寄りや身障者に席を譲らないのは、私の知るア切り、日本とインドだけです。

 

他人、特に弱者に対して冷酷というのは、数多ある日本の長所を打ち消して余りあるものだと思います。